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借金の相続は遺言書通りにいかない?!その理由とは

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アパートと付随するローンを一緒に相続させたかったものの

賃貸経営をしている父親が、長男に後を継いで欲しいという気持ちで、アパートとそれを建てるために組んだローンを長男にセットで相続させ、残りの預貯金については次男に相続させる内容の遺言書を書いて亡くなられました。

遺言書の内容としては、初心者が書いたものとしては出来がよく、実際に相続が発生してから、遺言書を確認した長男と次男も、それぞれ書いてある内容に納得ができていました。

しかし、ここまでは何の問題もない円満相続の状態だったのですが、いざ遺言書の内容を執行しようとしたところ、思わぬ障害が発生したのです!

銀行からまさかのNGが!

長男は遺言書を握りしめて、ローンの名義を自分名義に変更する手続きのために銀行に行ったところ、担当者から長男単独名義には変更できないといわれたのです。

遺言書にははっきりと、アパートとローンの両方を長男に相続させると書いてあるのに、なぜ銀行は拒否したのでしょうか。

マイナスの財産は債権者の同意が必要

遺言書については、民法の法定相続分よりも優先されるため、遺留分を侵害しない限りはその通りに執行できるというのが原則です。

ただし、それはプラスの財産の場合であって、ローンなどのマイナスの財産となってくると話が違ってきます。

被相続人が残した借金やローンの債権者については、すべての法定相続人に対して、法定相続分の割合に応じてローンの返済を請求することができるのです。

このように、相続と同時に法定相続分に応じて分割される借金のことを「可分債務(かぶんさいむ)」といいます。

例えば、長男に時価1億円のアパートとローン5,000万円を相続させ、次男には預貯金5,000万円を相続させる旨の遺言書を書いたとします。

内容だけ見ると、非常に平等で法定相続分に従っているように見えます。この遺言書が執行されれば、プラスの財産であるアパートと預貯金については、遺言書の内容通りに名義変更が可能です。

ところが、ローン5,000万円については債権者である銀行が、本来、長男に2,500万円、次男に2,500万円ずつ請求することができる状態のため、長男1人に5,000万円を背負わせるためには、銀行の同意を得なければなりません。

今回の事例では、銀行側の長男に対する信用評価が低かったこともあってか、長男1人を債務者としてローン名義を変更することに銀行が難色を示したのです。

 

借金は遺言書に書いても意味がない?

この話を聞くと、「じゃあ遺言書に借金について書いても意味がないのか」と思う人もいるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。

確かに、借金の分割に関する件については、たとえ遺言書に書かれていたとしても、債権者については一切拘束されません。これは、銀行ローンに限らず、知り合いからお金を借りている場合も同じことです。

知り合いから100万円借りている状態で死亡し、遺言書に「借金100万円は長男が相続する」と書いてあったとしても、知り合いは次男にも半分の50万円を請求することができます。

ただし、これはあくまで債権者が拘束されないという問題であり、相続人間では有効だという点が重要です。

今回の事例で言えば、次男が相続した5,000万円からローンの法定相続分に相当する2,500万円を捻出して一括で支払うことができれば、長男単独でアパートとローンを相続することについて、銀行は了承してくれたでしょう。

そして、ここからが重要なのですが、遺言書の内容は相続人間では有効なので、次男が支払った2,500万円については、遺言書によれば本来支払う必要はなかったお金なので、長男に対して請求できるのです。

 

まとめ:借金の相続は誰かが折れる必要がある

このように、借金の相続については、債権者側が遺言書の内容に納得しないケースもあるため、最終的には相続人同士か債権者の誰かが折れて妥協する必要が出てきます。

遺言書を書く際には、原則として、債務については法定相続人全員に請求されることを見越して、単独名義に変更したいのであれば、他の相続人が法定相続分に応じた金額を一括で返済できるよう、預貯金や生命保険金などで準備しておくとよいでしょう。