遺言 2017.10.04

遺言を使うと相続はどうなる?

最近、「終活」が話題になっています。そして、終活の一環として、自分が他界した後の財産や家族関係を整理することを可能にするのが、遺言です。
そこで、遺言があると相続はどう変わるのか、遺言では何ができるのか、できることに限界があるのかといったことについて、見ていきましょう。

記事ライター:今井弁護士事務所

法定相続vs遺言による相続

遺言がない場合、相続は、民法が定めるところに従って行われます。

これを、法定相続といいます。

法定相続の場合、誰が相続人になるのか、誰がどれくらいの相続分をもつのかといったことは法律で定められていて、どの財産を相続人間でどのように分配するかは遺産分割協議により決定します。

これに対して、遺言がある場合には、その遺言に記載がある点に関しては、その記載通りに相続が行われます。

すなわち、遺言の記載が、民法の定める法定相続の規律に優先します。

逆から言えば、法定相続の規律は、遺言の記載がない場合に妥当します。そのため、遺言が形として存在する中で法定相続の規律を妥当させるためには、その遺言が無効であることを示すほかありません。遺言には、このような強い効力が認められています。

 

遺言でできること

遺言によって記載した場合に法的な効力をもつ事項は、法律で定められているものに限られています。

たとえば、子の認知なども遺言によって行うことが可能ですが、相続に関係する事項について、主だったものは、下記の通りです。

(1)推定相続人の廃除  相続が開始した場合に相続人となるべき者(これを推定相続人といいます。)は、民法で定められており(886条以下)、遺言がない限りは、この者が最終的な相続人となります。しかし、推定相続人が被相続人に対して虐待等をしていた場合には、被相続人がこの推定相続人に相続させたくないと思うことがあるでしょう。  そこで、このような場合には、被相続人は、虐待等をした推定相続人の相続権を剥奪して、相続できないようにすることができます(892条)。これを「廃除」といい、この廃除の意思表示を、遺言を通じてすることができるとされています(893条)。

(2)相続分の指定  法定相続の場合、誰がどれくらいの財産を相続するかは、民法で定められています(900条など)。たとえば、配偶者と1人の子で相続する場合は、それぞれ2分の1ずつ相続するといった具合です。

しかし、たとえば、被相続人の子が高額所得者であるのに対し、被相続人の妻は大した資力がなく、その子も妻に金銭的な援助をしないという状況にあっては、被相続人が子より妻により多く財産を譲りたいと考えることがありうるでしょう。このような場合には、相続分の指定をすることによって、妻に3分の2を相続させ、子に3分の1を相続させるということができます。そして、このような指定を遺言の形で行うことができるとされています。 ただし、後述の遺留分を侵害しないように注意しなければなりません。

(3)遺産分割方法の指定 遺産分割とは、被相続人の財産(遺産)について、共同相続人間で誰がどの財産を譲り受けるか(どのように分割するか)を決定することをいいます。これは、原則として、共同相続人間の協議により決定されます。 もっとも、被相続人は、遺言により、遺産分割方法を指定することができます。 たとえば、遺産分割方法の指定をすることで、遺産全体について、現物分割(被相続人の財産の状態をそのままに分割すること)をするか、換価分割(被相続人の財産の売却対価を分割すること)をするか、代償分割(共同相続人の一部が、被相続人の財産を取得する代わりに、他の共同相続人に相当価額の金銭を交付すること)をするかなどを指定することができます。 また、遺産分割方法の指定として、遺言に「甲土地をAに相続させる」といった記載をすれば、特定の財産を特定の相続人に取得させることもできます。

(4)遺贈  被相続人は、遺贈によって、相続人以外の者にも自己の財産を譲り渡すことができます。遺贈の方法には、包括遺贈と特定遺贈があります。包括遺贈とは、たとえば「Aに自己の財産の3分の1を譲り渡す」といったように、割合により遺贈の対象を定める場合をいいます。これに対して、特定遺贈とは、「甲土地をAに譲り渡す」といったように、特定の物を遺贈の対象として定める場合をいいます。  ただし、後述の遺留分を侵害しないように注意しなければなりません。

 

遺言の限界としての遺留分

遺言の記載が法律の規定に優先するといっても、遺留分制度による限界が設けられています。

遺留分とは、相続される者の財産のうち、一定の範囲の相続人に法律上最低限保障された持分をいいます。遺言の内容が、遺留分を下回る財産しか遺留分を有する相続人に与えられないようなものになっている場合には、その内容通りの法状態が貫徹されるわけではありません。

たとえば、死亡した人が、愛人に全ての財産を遺贈する旨の遺言をのこしたとします。この場合、遺留分を有する相続人(たとえば、死亡した人の配偶者や子など)が、遺留分を侵害されたことを理由として法律上与えられた遺留分減殺請求権を行使すると、愛人に遺贈された財産のうち遺留分に相当する部分は、その行使した相続人に帰属することになります。この意味で、「愛人に全ての財産を遺贈する」という遺言の内容通りの法状態が貫徹されないことになります。

したがって、残されたもの同士の間で紛争を生じさせないためにも、遺言を書くにあたっては、遺留分の侵害がないかという点に気を配る方がよいでしょう。

 

遺言を書く方式

遺言を書く方式は、民法で定められています。

そして、この方式に従わないと、その遺言は無効になってしまい、遺言に記載した通りの相続が行わせることができなくなるため、注意しましょう。

遺言を書く方式には、主に、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。各方式に関する詳細については、他の記事において説明しています。

 

おわりに

遺言を書くことは、自分がそれまで築いてきた財産を自分の思い通りに処分するための手段となります。

また、その処分の仕方によっては、残された方々に対して、自分のメッセージを伝える手段ともなります。

さらには、遺言を書くことで要らぬ紛争を回避させることも可能です。たとえば、婚姻関係にない内縁の妻と同居していた自分の家を、その内縁の妻のために確保するためには、遺言を書くことが不可欠です(内縁の妻は法定相続人ではないため)。このような場合に遺言を書かないと、その家が誰の物かを巡って、法定相続人と内縁の妻の間で紛争が生じかねません。

このように、遺言を書くことには様々な利点があります。

みなさんも、「いずれ書けばいいや」と先延ばしにして書き逃すことがないよう、早めに遺言を書いてみてはいかがでしょうか?

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