相続放棄 2018.04.20

相続において財産を放棄する場面と、その方法について

たいていの場合、遺産相続では相続人が被相続人の財産を相続分に応じて受け継ぎます。しかし、様々な事情によって「相続する財産を放棄したい」と考えることもあるでしょう。
遺産相続で財産を放棄する場面には、「相続分の放棄」「相続放棄」「遺留分の放棄」の3つがあります。それぞれがどのような意味の財産放棄なのかについて、考えていきましょう。

記事ライター:棚田行政書士

財産をもらわないことを認める「相続分の放棄」

遺産分割協議で財産の分け方を話し合う場合、財産はいらないということを「相続を放棄する」と表現する人がいますが、この表現は間違いです。

相続を放棄するということの正しい意味合いは、相続人の立場を放棄するということです。この場合は、遺産分割協議に参加している時点で相続人ですし、単に財産をもらわないことを皆の前で認めているに過ぎません。

そのため、上記の場合については「相続分の放棄をする」という言い方が正しい表現でしょう。私的な場での意思表示ですから、特に手続きも必要ありません。自分に分配される財産は無い、と記載された遺産分割協議書に署名押印すれば、相続分の放棄は完了です。

注意したいのは、被相続人の財産に多額の債務がある場合です。

遺産分割協議の場で「債務は払いたくない。その代わり財産もいらない」という主張をし、遺産分割協議書にそのことを記載したとしても、それは遺産分割内の手続きであるため、その人の相続人としての責任は残ったままです。

債権者に債務を請求されれば、相続人として支払いの義務が発生してしまいます。債務を理由として「相続分の放棄」を検討しているなら、次に紹介する「相続放棄」を選択する必要があります。

 

債務超過の場合に財産すべてを放棄する「相続放棄」

金銭的価値のある財産よりも債務などマイナスの財産の方が多い場合には、相続放棄を検討することもできます。

相続放棄をすると、相続人の立場や責任が無くなります。財産も債務もすべての相続権を一切放棄することになるため、被相続人の債務を代わりに支払う責任はありません。

相続分の放棄とは違い、相続放棄は法的な制度であるため、家庭裁判所へ申立てを行い、認められることが必要です。

相続放棄は相続開始から、または自分が遺産相続の相続人であることを知った時から3カ月以内に決定しなくてはなりません。何も手続きをしないまま3カ月を過ぎると、相続することを了承したものとみなされてしまい、変更もできません。

しかし、被相続人の四十九日の法要が済んだ頃には、遺産相続開始からすでに2カ月近くが経過していることになり、相続放棄ができる残り時間はわずかです。被相続人の債務が多いと分かっている場合は、急いで決定しなければなりません。

どうしても3カ月では決められない場合は、家庭裁判所へ申し立てることで一定の猶予をもらうことができます。

相続放棄が認められるためには、相続放棄の申立ての前後に、被相続人の財産を処分したり消費したりしないようにも気を付けなければなりません。

財産の処分や消費があると相続を認めたものと見なされ、相続放棄が無効となってしまいます。これを「法定単純承認」といいます。ただし、単なる形見分けの範疇であれば、被相続人の財産をもらうことはできます。

どこまでなら形見分けに入るかは判断が難しいところですが、過去の判例では被相続人のほとんどの家財道具を持ち去った人に対し、財産の処分・消費にあたるために相続放棄を認めないという決定がされています。

逆に、被相続人のスーツ数着や、使用済みの家電などを形見分けとして得た人の場合は、それは形見分けであって相続財産の処分には当たらないとされ、相続放棄が認められています。

このように、形見分けに関する基準はケースバイケースですが、客観的に見て「形見分けにしては多いのでは?」と思われないような量にとどめておいた方が無難でしょう。

また、補足として、相続放棄した人は遺産相続において最初から相続人ではなかった人と見なされるため、子どもが代わりに相続人となる「代襲相続」は発生しません。

 

遺留分の財産を受け取らない「遺留分の放棄」

被相続人の兄弟姉妹以外の相続人が、最低限受け取れると保証されている財産「遺留分」も放棄することが可能です。

遺留分の放棄に特別な手続きは不要です。相続発生後、遺留分減殺請求をせずに1年が経てば、時効となり請求権は消滅します。相続開始前に遺留分の放棄をしたい場合は、家庭裁判所への申立てが必要です。

ちなみに、相続人のひとりが遺留分を放棄したからと言っても、他の相続人の遺留分が増えることはありません。

 

まとめ

相続における財産の放棄には、いくつかの種類があります。状況次第で適切な財産の放棄は異なります。素早い決断が必要な財産の放棄もありますから、判断は早めに行いましょう。

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