相続税 2021.08.11

可愛がっていたペットに遺産を相続させるができるのか?

コロナ禍も影響して、ペットを飼う人が増加していると言います。もはやペットを家族の一員だと考えている人も、少なくありません。そのような人が、自分の財産をペットに残したいと思うのも無理はありません。しかし、ペットに遺産を相続させることはできるのでしょうか?

記事ライター:井上行政書士

「ペットに相続」は有効か?

遺言者の意図は?

Aさんには妻や子どもがなく、飼っている3匹の犬が唯一の家族です。高齢になったAさんは、終活をしていく段階で、存命中の2人の兄が自分の財産を相続することに気付きました。

しかし、幼い頃から仲が良くなかった2人の兄には、自分の財産を1円も渡したくありません。そこで、Aさんは「全ての財産を可愛がっているペットに渡す」旨の遺言書を作成しました。

Aさんとしては、2人の兄に絶対財産を渡したくない、兄に渡すくらいなら3匹の犬に渡したい方が良いという程度の軽い気持ちでした。

遺言書の問題点

Aさんが作成した遺言書についてですが、「ペットへの相続は有効か否か」の説明は、次項に譲るとして、2つ問題点があります。

問題点1:独断で遺言書を作成した

まず、Aさんが遺言書を独断で作成した点です。自分で作成する遺言書を「自筆証書遺言」と言いますが、この遺言書では、法的に定められた要件を全て満たしていないと、遺言書自体が無効になってしまいます。

具体的な要件としては、全て自筆で書かれていること、日付が明記されていること、署名・捺印があること等があります。但し、民法の改正によって、平成31年1月13日から遺言者の財産を記載した「財産目録」については、パソコンで作成したり、財産を記載した文書を複写したりすることができ、自筆する必要がなくなりました。

問題点2:相続人への配慮

2つ目の問題点としては、「遺留分」を持つ相続人への配慮です。法定相続人がいるにも関わらず、相続人以外の人に全財産を相続させる旨の遺言書を作成しても、法定相続人には「遺留分」と言う制度があり、実現できない可能性があります。

「遺留分」とは、相続人のもつ遺産に対する期待権を守るために、遺産の一定の割合を相続人に保証するものです。例えば、預金が1,000万円あるBさんが、遺言書で「預金1,000万円は、全て(法定相続人以外の)Cさんに相続させる」と言った遺言書を残したとします。

このままだと、全てCさんが預金1,000万円を相続することになります。しかし、Bさんの妻と子どもには「遺留分」が認められています。具体的には、法定相続分の半分です。従って、妻と子どもは、それぞれ4分の1ずつ、つまり250万円ずつを相続することができるのです。

このように、遺言書を作成する際には、「遺留分」が認められている法定相続人へ配慮した相続内容にすべきです。そうでないと、被相続人が亡くなった後に、トラブルが発生する可能性があります。

但し、「遺留分」が認められている相続人は、配偶者、直系卑属(子ども、孫)、直系尊属(両親、祖父母)です。従って、Aさんの場合、兄弟に「遺留分」を認められないことになります。

ペットへの相続は有効か?

それでは、Aさんが書いた「全財産をペットの相続させる」と言う遺言書は、有効なのでしょうか。

結論から申し上げますと、無効になります。日本では、動物は「物扱い」となることから、自分の財産を「物」に相続することは認められないのです。自分の財産を相続させることが可能な対象としては、自然人(人)、法人・会社、各種団体です。

先程日本ではできないと説明しましたが、実はアメリカでは一部の州を除いて、自分が飼っているペットに相続できるような法整備がなされています。「ペットにも権利がある(animal rights)」という考え方から来ています。

 

ペットに相続させたい場合には?

遺言書の記載内容

Aさんが遺言書を書く際に、「ペットに自分の財産を相続させたい」という気持ちをどのように表現したら、良かったのでしょうか。

考えられる方法としては、「特定の人に、ペットの世話をしてくれることを条件にして、相続する」旨の記載をすることです。このように、ある条件を付けて特定の人に財産を渡すことを「負担付贈与」と言います。

負担付遺贈の遺言書を作成するポイント

Aさんが「負担付遺贈」の遺言書を作成する場合に、留意点が2つあります。

まず1つ目は、表現方法です。ただ単に、「私が飼っているペット3匹の面倒を看ることを条件に、Dさんに全財産を遺贈する」とした場合、法定相続人である兄2人は、納得しない場合があります。そこで、自分の財産の相続を考えるときに、なぜ兄2人ではなくペットを優先したのか、なぜDさんに依頼したのか等、遺言書の中で丁寧に説明する必要があります。

そして2つ目は、専門家への依頼です。今回は自分で作成する「自筆証書遺言」という方法をAさんが取りましたが、できれば弁護士や行政書士等の専門家に作成を依頼し、「公正証書遺言」にした方が適切です。費用は掛かりますが、Aさんが亡くなった後で紛糾する可能性は、かなり低くなると考えられます。

注意点

「負担付遺贈」で注意する点があります。それは、Dさんがペットの世話をしない等、約束を守らない場合には、相続人である兄2人は、催促できることです。それでも実行しない場合には、遺言の取り消しを家庭裁判所に請求することができます。そうなると、Aさんの財産が、兄2人に行く可能性があります。

従って、Aさんは遺言書を作成する前に、Dさんと十分話し合いを行い、最後までペットの世話が可能かどうか、確認しておく必要があります。

 

まとめ

法定相続人に財産を相続させたくない場合には、遺言書でその旨を記載すれば有効ですが、実際に相続が始まればトラブルに発展する可能性があります。従って、できれば専門家に相談をして、公正証書遺言にすることをお勧めします。また、「負担付遺贈」を遺言書に記載する場合には、自分の意図や思いを盛り込むようにしましょう。

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